日本のお葬式事情

お葬式が変化中

いわゆる「お葬式」は、「通夜」と「葬儀・告別式」の順に行なわれます。

地面に置かれた白いバラ、ガーベラ、トルコききょうなどのフラワーアレンジ
Photo by Pixabay

いまどきの日本のお葬式は、この2つが変化しつつあります。
その原因として、「現代人の宗教観・死生観の変容」「超高齢化」「経済的理由」が考えられています。

葬儀・告別式とは

「葬儀」とは、家族・親族・友人などの近しい人たちが、故人の冥福を祈る宗教行事です。
「告別式(本葬)」とは、一般の友人・知人などの会葬者が参列して冥福を祈ります。

この2つをひとまとめにして区切りなく行なわれるのが、「一般葬」です。
人数が多くなるため、葬儀社などの大きなホールで行なわれます。

それに対して、近親者だけで行なう小規模なお葬式を、「密葬」といいます。
密葬のあとに日を変えて、会葬者が訪れる告別式が設けられるのが一般的です。

家族葬が増加している

ちかごろ都市部で増加している「家族葬」は、あとで告別式を設けずに少人数で通夜・葬儀を行なうお葬式です。
「少人数」には身内(2親等まで)のみ、親戚も合わせる、友人・知人も含めるなどいろいろなパターンがあります。

家族葬は、故人や遺族の意志を尊重した自由度の高いお葬式が行なえることに人気があります。

家族葬では従来の一般葬で見られた大型の白木の祭壇が減少し、祭壇を設けずに棺の回りを故人の好きな生花で飾り、その前に焼香台を設けるのが増えています。

故人が交流の広い人だった場合、後日あらためて遺族や友人が主催して告別式ではなく「お別れ会」を開くことがあります。

家族葬が増加した背景には、「従来の葬儀への不満や反発」、「超高齢化で喪主も高齢者の場合が増え、社会や会社との付き合いが途切れていること」などがあります。

1日で終わらせる一日葬

「一日葬(ワンデーセレモニー)」を提唱している葬儀業者が、都市部で増えています。
一日葬とは、通夜を省くことで、葬儀・告別式・初七日法要のすべてを1日で終わらせられるものです。

現代では一般葬でも、告別式の当日に初七日の法要も合わせて行なう「繰り上げ初七日」が一般的です。
初七日とは、自宅に遺骨が戻ったあと亡くなってから7日目に僧侶に読経してもらい、「忌中」だった遺族・親族が普通の生活に戻る習慣をいいます。

繰り上げ初七日では、告別式の当日に火葬も終え、遺骨を迎えて読経します。
その後、僧侶も交えて精進落としの会食に入ります。

一日葬では、「式中初七日」といって、火葬する前に告別式の中で初七日の読経もいっしょに上げてもらいます。
こうすると、繰り上げ初七日の告別式よりも早く終えられることになります。

葬儀・告別式を行なわない直葬

火葬炉の前に設けられた祭壇
illustration by イラストAC

「直葬(ちょくそう)」とは、遺体を病院などの亡くなった場所から直接火葬場へ搬送し、通夜・葬儀・告別式を行なわず火葬のみを行なう葬送です。

直葬は、関東圏で葬儀全体の2割近く、大阪圏は1割、地方でも1割あります。

家族葬のように右肩上がりで増加、とはいいきれません。
遺族がはじめは直葬を希望していても、花だけを供えるごく小規模なお葬式や、通夜だけを行なって次の日に火葬する「通夜葬」に変更するケースも多いからです。

直葬を望む理由は圧倒的に「経済的理由」です。
以下、「参列者がいない」「宗教観の変化」「遺族が葬儀の意義を理解していない」が続きます。

自分で自分の棺をかつぐ

自分で自分のお葬式について調べたり、実際に葬儀社に相談・契約する人も増えています。
「エンディングノート」に関心が高まっているのもそのひとつです。

これも従来の「お葬式」への意識の変化、死生観・宗教観の変化が理由です。
その結果、自分で家族葬をプロデュースしたり、無宗教葬や直葬を選んだりします。

実際にお葬式をした葬儀社に対し、約4割の人が「故人や家族等が事前に相談していた」ようです。
亡くなって4時間未満で急いで葬儀社を決める遺族が5割近いいっぽう、生前に自分と家族とで決めている人が2割強います。

無宗教葬(自由葬)の増加

無宗教葬は都市部で増加しています。
決まった式次第はなく、読経の代わりに音楽の生演奏、焼香の代わりに献花をしたりします。
無宗教葬では、葬儀社の企画力やセンスが問われます。

しかし、菩提寺があるのに無宗教葬(すなわち戒名がない)をすると、納骨を断わられることがあります。
また、遺族が「故人の魂をあの世に送り、自分たちの心の区切りをつける」ことができにくくなります。
親族の反対にあうこともあります。

その場合、通夜のみ仏式にして葬儀は無宗教にするなどの、折衷にした家族葬にされるそうです。

遺体をどこに安置するのか

日本では、亡くなってすぐに火葬にすることはできません。
「墓地、埋葬等に関する法律」に「埋葬又は火葬は、他の法令に別段の定があるものを除く外、死亡又は死産後二十四時間を経過した後でなければ、これを行つてはならない。」とあるからです。

都市部では亡くなる人が多いうえに火葬場不足で、何日も火葬の順番待ちをしなくてはならない事態がおきています。

葬儀・告別式は火葬の予約を取ってから予定を組むので、亡くなってから1週間近く葬儀が行なえないこともあります。
その場合、棺にドライアイスを詰めて1~2日間自宅に安置し、そのあと葬儀まで葬儀社の保冷庫に安置されます。

また、病院で亡くなってから自宅に戻らず斎場へ直接搬送するケースが増えています。
自宅が賃貸の集合住宅の場合、遺体を運び込んではならないとの規約があるところがあります。
マンションではエレベーターに棺が入らないこともあります。

火葬するまでの遺体の扱いが、葬儀社を決めるポイントのうちのひとつになりそうです。

お葬式費用はやはり高い

電卓とノートとお金8510円
Photo by 写真素材 足成

大都市圏で、一般葬(通夜・葬儀・告別式)は150万円から200万円。200万円以下が全体の9割です。
直葬だと、20万円未満です。献花などをプラスしても30万円くらいです。

香典は全国平均で88万6,844円。
地域性が強く、中部地方が最多で108万6,449円、近畿地方が最少で62万5,182円です。

もっとも香典の多い中部地方の葬儀費用は飲食費・返礼品を合わせて、全部で229万4,393円。
もっとも少ない近畿地方でも、195万4,197円です。

「葬儀代は香典でまかなえる」といわれますが、とても香典でまかなえる金額ではありません。
だから、より小規模な家族葬や自由葬、一日葬などにすることによって、経済的な負担を和らげようと考えられているようです。

「香典辞退」の増加

大阪圏で顕著ですが、「香典辞退」のお葬式が増えています。

かつて、お葬式を出すとき、近所の人たちが協力する風習がありました。
喪家では、手伝ってくれた近所の人たちに飲食を振る舞わなくてはならず、経済的な負担になりました。

そのため、香典としてお金を渡して、相互扶助をするようになりました。
しかし、今度は香典返しとして品物を贈る習慣が生じました。

少人数で送る家族葬では、「香典辞退」をすることで金品のやりとりの煩雑さから解放され、ひっそりと静かに故人を偲ぶことが多いようです。

参列する方も、付き合いの規模に応じて香典を負担し続ける金銭的な大変さから逃れることができます。

これもまた、相互扶助の一つの形と考えられます。

葬儀社が増えている

高齢化の進行に伴い、葬儀業への他業者の参入が増えています。

インターネットで仲介してすべてを外部委託して葬儀を行なったり、僧侶の派遣をする業者もあります。
また、「遺品整理業」や「遺体預かり業」の兼業、司法書士による各種手続き一括支援サービスなどを付加する葬儀社もあります。

葬儀業には事業免許がいらないそうです。
なかには葬儀の知識の乏しい業者や悪質な新規参入者もいて、直葬や香典辞退など、故人の意向が曲げられてしまうこともあるようです。

遺族がお葬式で困ったこととして、「心付けやお布施の額」、「通夜や告別式の接待の仕方や手順」、「葬儀の手順がわからなかった」が上げられています。

この疑問や不安を解決してくれる業者を見つけるために、やはり事前の調査や相談が重要なようです。

2023年4月5日

Posted by 管理人めぶき